今回は、注目のスノーリゾート「妙高高原」(新潟県妙高市)で昨シーズンより宿泊事業に参入した投資家に話を聞いた。ニセコや白馬のように訪日外国人が押し寄せているのか? これから妙高に参入して果たして商機があるのか? 妙高投資のリアルに迫る!
スノーリゾートにおけるインバウンドの現状とは?
その前に、スノーリゾートにおけるインバウンドの現状について簡単に説明しておこう。近年、北海道のニセコや長野県の白馬といったスノーリゾートが外国人観光客で活況を呈していることは、ウィンタースポーツを嗜まない人でもきっとご存じのはず。
海外からわざわざこれらのリゾート地に足を運ぶ理由はその雪質の良さにある。「JAPOW(ジャパウ)」と呼ばれる日本のサラサラのパウダースノーは実は世界じゅうのスキーヤー・スノーボーダーの垂涎の的なのだ。
もともと妙高高原、中でも赤倉は2010年代にはオーストラリアを中心に訪日外国人が多いエリアではあった。
というのも2006年、すでにインバウンド誘致に成功していたニセコに続けとばかりに、妙高のほか志賀高原、野沢温泉などの宿泊関係者らが「長野新潟スノーリゾートアライアンス実行委員会」を設立。訪日外国人をスキー場に誘致するプロジェクトを始め、その効果がいずれの地でも出始めていたからである。
そんな中、「妙高が頭1つ抜けた」と印象づける出来事があった。2023年11月、シンガポールに本社を置く不動産投資会社「ペイシャンス・キャピタル・グループ」が、もともと東京の西武ホールディングスが運営していた杉ノ原スキー場を買収。今後、総額およそ2000億円を投じ、妙高高原地域などでリゾート開発を進める計画と発表したのである。
ニセコや白馬の成功の要因も大手外国資本の参入が大きく、地元住民や観光業者・宿泊業者も「次は妙高!」といったムードになるのも無理はない。
ニセコはもはや手が出しにくい価格に。次は妙高が来る!
では、昨年、東京から移住して妙高市で訪日外国人向けの一棟貸しログハウス「グリーンベル」(を運営している妙高ハウス株式会社の代表取締役・山内佳奈子さん(30歳代)に話をうかがおう。
山内さんが運営するログハウス「グリーンベル」まずは物件購入までの経緯を聞いた。
「私は理学療法士としてリハビリテーション病院に勤務した後、独立し、カラダのメンテナンスやパーソナルトレーニングの指導をする仕事をしていました。
そのクライアントさんの1人に、起業家で、本業の傍ら宿泊事業や1棟レジデンス投資など幅広く手がける不動産投資家の女性がいまして、施術しながらお話を聞いているうちに『私も不動産投資をやりたい!』と思うようになりました」
シングルマザーということもあり、不動産収入を得て経済的に安定したいという気持ちもあったという。
「物件購入に当たっては、旅館業で運用益の高いエリアを探していました。まずニセコに行ったのですが、かなり古い物件でも2億円くらいしたり、橋を一本渡ったら価値が下がってしまうなど、自分が買える、あるいは買いたいと思える物件にはなかなか出合えませんでした。
でも、出口としてキャピタルゲインも考えると、すでに価格が高騰している都心部よりも地方の『第2のニセコ』を探したいという気持ちが強く……。そんなときに金融関係の仕事をしているママ友から『妙高が来ている!』という話を耳にしたんです」
昨年の春ごろからネットで「妙高」「中古物件」といったワードでひたすら検索したり、REINS(不動産業者のみが利用できる不動産情報ネットワーク)で探してもらったりするも情報はほぼナシ。
「そのうちにインターネットの検索結果ページの7ページ目くらいになると、地元の小さな不動産屋のHPが出てくるとわかり、手あたり次第に連絡しました。
条件としては『スキー場に近い』『車でアクセスしやすい』『自然が感じられる環境』の3つを重視しました。予算は1億円以下、できれば数千万円台の前半を希望していました」
そのうちの1軒の地元の不動産業者からいい物件があるとの連絡をもらい、すぐさま内見へ。それが約300坪の土地と延べ面積60~100㎡程度のログハウス4棟(築25年、間取り3LDK)だった。
4棟運営するログハウスのうちの1棟。「妙高は昔ながらの旅館や民宿などが多く、一棟貸しのようにプライベートな空間で泊まれるところがあまりないんです。
特に外国人の方は大浴場でみんなと一緒にお風呂に入るようなところよりもこういうほうがいいだろうな、と感じました。宿泊業としての売上が見込めると確信し、どうしてもこの話を手放したくないと思いました」
例の不動産投資家&起業家の女性に相談すると、片手間ではなく、移住して本気で宿泊業に取り組まなければうまくいかないと助言され、「自分自身も新しいステージにチャレンジしたいと思っていたので、購入を決意。移住することになりました」と山内さん。
移住して自分で管理・運営する姿勢が融資の審査でも有利に
リフォームを含めると総事業費は結局1億円近くに。融資は地元の地銀を利用した。融資の審査では「住民票も移して、こちらに住みます」という本気度のアピールが高評価につながったという。
「今はどこも融資に対して厳しいと聞いていましたので、事業計画書はプロの方に作っていただきました。金融機関は売主さんの取引銀行の担当の方を紹介してもらいました。
売主さんにしても無事に売却したいので、いろいろと力添えしてくださり、思ったよりもスムーズにいきました。融資の際には、売主さんなど、地元の有力者のサポートを得ることが有益と学びました。」
昨年8月末には物件の引き渡しが完了。開業準備の際には、旅館業許認可の書類の多さにひとり格闘した。インバウンド需要で保健所や消防の審査が混み合い、許可が下りるまでに時間がかかるといった歯がゆい状況を経験しながらも、なんとか冬の開業に間に合った。
宿泊施設準備中は40以上ものベッドをひとりで組み立てるのが大変だったという……「宿のコンセプトは『大自然の中で“何もしない”を楽しめる場所』。便利さよりも、静けさやゆったりした時間を求める方に来てほしいと思って造りました。最近では、星空や雪景色を楽しめるよう、照明の配置やデッキの設計にもこだわり、海外の方にとって特別な時間を演出できるようにしています」
「高単価×満足度の高い滞在」で4か月で1年分を稼ぐ!
開業からまだ1年たっていないものの、とりあえず冬の営業をワンシーズン終えてみて、業績はいかがなものだったろうか。
「稼働率は、冬はほぼ満室でした。外国人のお客さまが95%。1棟貸しで1泊10~15万円で、みなさん平均5泊くらいはされますね。1回の滞在で100万円のお支払いになるお客さまも珍しくありません。
リピート率が高いのが特徴で、お泊りになったお客さまは1年後の冬の予約をして帰られるので、来シーズンの予約はすでに6割がた埋まっています」
冬場の様子。近隣のスキー場はGWまで営業しているところもあるが、4月になると雪質が悪くなるため、12月から3月までの4か月間が勝負。トップシーズンの期間は短いが、高単価ゆえに1棟あたり冬だけでザっと1200万円~の売上になる計算だ。
経費に関してはどうか。
「暖房代や除雪費用はビックリするほどかかりますね。除雪機も中古で1台200万以上しますし、雪を一時的に移動したり、保管場所へ運搬したりするローダーも必要です。
さらにランニングコストのガソリン代も軽視できません。最初は自分でこれらを操縦して除雪しようと思っていたんですが、地元の方から『あなたには無理!』と心配されて、最初はご指導をいただきながら必死で除雪をしました。暖房にかかる灯油代は1棟につき1ヶ月12万円ほどで、それ以外にも電気代もかかります」
運営に際しては想定以上の経費計上が必要のようだ。「経費分を宿泊単価に上乗せできるように付加価値をどうつけるかがポイント」とのことで、「グリーンベル」ではサウナをつけるなどでバリューアップにつなげているという。
4棟のうち2棟がサウナ付き。経費を引いた実質利回りは「冬のみで10%くらい」。つまり、これからのグリーンシーズンの成果によってはさらなる利回りが狙えることになる。
「春の稼働率は20%くらい。ほとんどが日本人です。夏の予約は最近多くなってきていまして、ファミリー層やワーケーション利用が増えています。将来的には年間60%前後を目指しています。妙高のようなスノーリゾートは『冬に全振り』みたいなところがあって、年間を通じた収益化が課題ですね」
今期からは五右衛門風呂やピザ窯など「体験系のアクティビティ」を増やし、グリーンシーズンの集客につなげていく予定とのこと。
スノーリゾート宿泊施設で遠隔運営は可能か?
さて、健美家読者の中には、清掃・ベッドメイクなどを外注して遠隔地の宿泊施設を運営されている方もいるだろう。スノーリゾートの宿泊施設でもそのような遠隔運営が可能なのだろうか。
キッチン付きゆえ、調理器具やお皿など、ホテル以上に清掃に手間と時間がかかる。「清掃など一部は可能ですが、正直なところ、かなり厳しいと思います。冬はお客さまの車が道路でスタックしてしまったのを救助に行ったり、道をふさいでご迷惑をおかけしたことを近所の方に謝りに行ったり、すぐに駆け付けなくてはならないことが多いです。
鍵を落としてしまったと呼び出されることも。雪の上で鍵を落としてしまうとまず見つかりません。やはり、雪かきも含め、人件費をかけても内製化するのが理想ですね」
現在、山内さんはご自身の物件だけでなく、他の投資家が所有する物件も管理し、宿泊施設として運営代行しているという。地方は東京とは違い、宿泊業運営をまるごと任せられる「民泊代行」の業者がほぼいないが、「弊社が今のところ妙高で唯一の管理委託会社となっています」と山内さん。
スタッフは妙高市の子育て支援係を通じて紹介してもらったシングルマザーを雇用。地域の雇用創出、シングルマザー支援にも貢献している。
不動産価格は数年で2~3割上昇。ネットに出る前に水面下で取引
地域にもすっかり溶け込み、今では地元の人から旅館や土地などの売却情報が持ち込まれるようにもなった。
「私が最初に妙高の物件をネットで探してもなかなか情報が出てこなかったように、ネットに出る前に地元のつながりで売買が決まってしまうケースが多いと思います。
妙高の不動産価格は上がっていて、特に赤倉周辺は数年前と比べて2~3割は上がった印象です。ただ私が運営するログハウスがある田口エリアはまだ割安感がありますし、妙高高原の各スキー場から車で5~10分と近く、引き続き投資先として注目しています。あとは池の平温泉周辺も穴場です」
今後の展開についてもうかがった。
「妙高の1棟貸しの宿泊施設は需要に対して供給がまだまだ足りていません。1年前から6割がた予約が埋まり、シーズン中はほぼ満室という状態ですので、予約のお申込みもお断りせざるを得ず、大きな機会損失となっています。ですので、今のログハウスに加え6棟増やし、この冬は10棟を運営予定です。
また、現在、土地の準備もしており、トレーラーハウスや新築一棟を準備して、1棟貸しの宿泊施設を増やすプロジェクトにも取り組んでいます。
妙高や地方不動産に興味のある投資家さん、事業者さん、宿泊運営や地方での資産活用を検討中の個人の方・法人さまにも是非この事業に参画していただけたらと思っています」
トレーラーハウス投資に関しては、減価償却が4年と建物よりも償却期間がかなり短く、「初期段階で多額の減価償却費を計上でき、課税所得を抑えられることが大きなメリット」とのこと。
7月20(土)~21(日)日には山内さんが運営するログハウス「グリーンベル」に宿泊し、妙高の大自然の魅力を体感してもらいながら、市内の不動産を巡る「妙高不動産視察会」を実施予定だ。
妙高ハウス株式会社が展開する宿泊・分譲事業についての説明のほか、BBQやホタル観賞などのお楽しみもある。興味がある方は是非、妙高ハウス株式会社(yamauchi@myokohouse.jp)までお問合せを。
現地に泊まり、妙高投資のポテンシャルを感じてもらうイベントを開催。妙高への投資、今からでも間に合うのか?
ここ数年、ニセコや白馬では不動産価格もバブル期を凌駕する勢いで上昇し、利回りを求める投資家にとってはもはや「手が出しづらいエリア」となってしまった。
それに比べると、まだ妙高はエリアを選べば割安物件もありそうだ。インバウンド向け宿泊施設もまだ飽和状態ではなく、むしろ足りていないとのこと。妙高のインバウンド宿泊投資にこれから参入するのも遅くはないかもしれない。
ただし、不動産が地元業者間で取引されるなか、いかに不動産情報にアクセスできるかどうかがが好物件取得の分かれ目になりそうだ。
また、その後の運営もスノーリゾート特有の気候や地域との関係構築など難易度は若干高め。これらをクリアするためには自ら運営することを厭わずに地元に根ざす覚悟を決めるか、あるいは現地に頼れるパートナーを見つけることがカギではなかろうか。
取材・文:らん・ ぶるす子(らんぶるすこ)

■ 主な経歴
編集・ライター。ワインをつくる不動産投資家。日本ソムリエ協会ワインエキスパート